2008年10月7日火曜日

風の歌を聴け

 

芦屋市ゆかりの作家村上春樹さんの作品に登場する打出公園(同市打出小槌町)の「サルのおり」から、あるじがいなくなって5年が過ぎた。市は「新しいサルを飼う予定はない」と明言するが、おりの撤去には踏み切れずにいる。世界的に有名ノーベル賞候補とされる村上さんとのつながりがあるだけに、思い入れのあるファンらの反応が気にかかるからだ。

 

英ブックメーカーが九月末に公表した今年のノーベル文学賞の受賞者予想で、昨年と同様、六番手の高い評価を受けた村上さんは中学、高校時代を芦屋で暮らした。デビュー作「風の歌を聴け」で、車で垣根に突っ込んだ主人公に、おりにいたサルが腹を立てるシーンは「おさるの公園」と親しまれた同公園がモデルという。

 

 

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同公園は一九五九年にオープンした。開園直後、タイワンザルのジローが生まれ、ピーク時は五頭前後がいたが、九三年に兄のタローが死んでからは一匹だけに。二〇〇三年、推定年齢四十歳、人間に換算して約百三十歳という“ギネス級”の天寿を全うした。

 

愛着のある市民らから「新しいサルを」と要望もあったが、市公園緑地課は「飼育の責任者を置くなどの体制づくりが現状では不可能」とする。

 

そこで問題になるのが、おりの扱い。死角をつくるとして防犯上の問題が指摘されたこともあり、同課の下岡政夫課長は「見通しがよくなりスペースも広がるので、公園の設置目的からすると撤去が望ましい」と話す。

 

一方で、村上さんは芦屋ゆかりの有名人とあって、簡単に撤去に踏み切れない事情もある。同課が村上さんと公園との関連を積極的にPRしないのも、公園が有名になると取り壊しにくくなるからだ。ノーベル賞を受賞すれば、同公園が注目を集めるのは必至とあって、下岡課長は「一職員としてはぜひ受賞してほしいが、公園緑地課長の立場では複雑です」と選考の行方を見守っている。